日本時間栄養学会 ご挨拶
⽇本時間栄養学会は、2014 年に発⾜した時間栄養科学研究会を前⾝とし、今年でちょうど 10 年⽬を迎えようとしています。私たちの体には体内時計の仕組みが備わっており、睡眠覚醒のみならず、体温や⾎圧、ホルモン分泌、細胞増殖などの様々な⽣理機能に⽇内リズムが存在します。また、様々な疾患の発症や症状においても⽇内リズムが存在することが知られています。20 世紀後半の時計遺伝⼦の発⾒により、⽣体リズムについて分⼦のレベルで研究されるようになり、概⽇リズム(サーカディアンリズム)のリズム発振メカニズムの解明とともに、疾患の予防や治療を⽬的とした時間薬理学とよばれる研究分野が注⽬されるようになりました。時間薬理学では、疾患の好発時間帯や薬物の吸収・代謝といった薬物動態の⽇内リズムを考慮し、薬効を⾼めたり副作⽤を軽減させたりするための投薬時刻に関する研究を⾏います。「時間栄養学」は、「何をどれだけ⾷べるべきか」という従来の栄養学に、「いつ⾷べるべきか」といった時間的視点を取り⼊れた新しい学問分野です。⽇本では古くから「薬⾷同源(医⾷同源)」や「未病」という東洋的な思想が浸透しており、時間薬理学的発想に基づいた「時間栄養学」の学術体系は、世界の中でも先駆的な⽴場で発展してきました。
⾔うまでもなく、超⾼齢社会を迎えたわが国においては、医療費の増⼤を抑制するための健康寿命の延伸が喫緊の課題となっています。その⼀⽅で、社会の 24 時間化や⾷⽣活の欧⽶化、⽣活の利便性の向上による運動量の減少など、現代社会においては⾝体的な健康を維持するためには、正しい情報に基づく積極的な⾏動が求められる時代となっています。また、睡眠障害や精神的ストレスによる⼼の問題も⼤きな課題となっています。時間栄養学は、⼦どもから⾼齢者まで、多くの国⺠の⼼と体の健康を守ることにより QOL の向上に貢献できるものと信じております。
現在、本学会に所属する研究者を中⼼に、時間栄養学や時間運動学に関する基礎的研究の成果が着実に積みあがってきています。本学会は、最新の研究成果の社会への情報発信とともに、研究成果の社会への橋渡し、つまり社会実装を⽬指すことが⼤きな⽬標となっています。本学会は、⼤学等研究機関の研究者のみならず、現場で栄養指導を実践する管理栄養⼠や、医師、看護師、そして医薬品や⾷品の研究開発現場で活躍している多くの研究者の皆さんの⼊会を歓迎します。年内には、⽇本学術会議協⼒学術研究団体への申請を⾏い、関連する学術研究団体との密接な協⼒体制を構築するとともに、総説集については、世界に向けて J―S T A G E での公開を⽬指しております。本学会の活動と運営へのご理解ご協⼒を⼼よりお願い申し上げます。
2023 年 1 ⽉
「⽇本時間栄養学会」会⻑
国⽴研究開発法⼈ 産業技術総合研究所 ⼤⽯勝隆